糖尿病患者が食事制限をしなければならないことは論をまたないでしょう。しかし、言葉にすればこれほど簡単なことでも、いざ実行するとなると多くの人はそれができません。自らの食欲をコントロールすることができないのです。
これは何も糖尿病患者特有の現象ではありません。年齢や性別を問わず、カロリーコントロールによるダイエットを試みたことがある人なら、その困難さをご存知でしょう。そもそも、食事制限がそれほど簡単なのだとしたら、世の中にこれほどダイエット法に関する情報が氾濫したりしなかったでしょう。
糖尿病患者に課されている制約は、それほどに困難なものなのです。しかし、これをやらないわけには行きません。普通の肥満体の人たちよりも切実に、生命の危機に直結しているのですからね。
ご多分にもれず、父も食事制限に苦しんでいます。食事の内容を変えること自体はまだいいのですが、問題は食事の量を減らすということです。
病気が発覚するまで、彼は一食でに1~2合の白米と大量のおかずを食べ続けてきました。そのような食生活を長年続けていたため、胃袋が拡張しきっていたのです。そんな彼が、病人食の量に耐えられるわけがありません。
最初は言葉に表せないような飢餓感に襲われたそうです。それを必死に耐えていると、今度はめまいがして手足が震えてきたといいます。おそらく低血糖を起こしていたのでしょうが、だからといって従来の食事量や食事内容に戻すわけにもいきません。
今でこそ多少落ち着いていますが、当時は「たとえ寿命が縮んでもいいから、腹いっぱいに甘いものを食べたい」と思っていたそうです。父はもともと「甘いものなんて好きじゃない」と言っていた人間なのですが、食べられなくなった途端に甘いものの魅力に気づいたそうです。
結局、人間は失って初めてその価値を理解する生き物なのかもしれません。