「糖尿病なんてのは贅沢病だ」
「糖尿病になるなんて、よほどいいもんを食ってたんだな」
「貧乏人にはかからない」
私が子供の頃は、このような滅茶苦茶なことを賢しげに言う大人がたくさんいました。私自身も「贅沢なものを食べていると糖尿病になるよ」なんて言われた記憶があります(もっとも、これは食卓にろくなおかずを用意しなかった言い訳というか、冗談の類ですが)。
では、実際のところ糖尿病は贅沢病なのでしょうか?
質素な食事をしていれば、この病気にはかからないのでしょうか?
糖尿病と贅沢は無関係
子供の頃は大人の言うことを信じていました。しかし今ならはっきりと言えます。これらの発言は完全に間違っています。
たとえば1型糖尿病(小児糖尿病)などは自己免疫系の異常が原因と見られています。これは食習慣などが原因ではないので、贅沢な食事など無関係です。
また、食生活が原因といわれる2型糖尿病についても、「贅沢」なものを食べるからなるのではありません。あくまでも糖質の過剰摂取、血糖値の上昇が問題なのです。そして血糖値を上げる食物は、別に高価なものばかりではありません。
「贅沢するから糖尿病になる」説の奇妙さ
そもそも贅沢なものを食べるから糖尿病になるのだとすれば、糖尿病の発症確率が食材の市場価格によって決定されることになってしまいます。糖尿病は貨幣経済が生み出した社会的構成物なのでしょうか?
病気ではなくて資本主義が産んだ社会問題なのでしょうか?
フランス系現代思想にかぶれた社会的構成主義者が言いそうな言葉ですが、そんなわけありませんね。食材の値段が変わっても食材に含まれる糖質量は変化しません。ナンセンスですよ。
(ちなみに、現代思想を貶しているわけではありません。フーコーとかむしろ好きです。)
むしろ、食の安全が叫ばれ有機野菜がブームとなり野菜価格が高騰している昨今では、栄養豊富で身体に良いものの方が高価です。贅沢な食事をしている人のほうが健康かもしれません。
逆に、貧困が原因で食事が偏った結果の糖尿病の方がずっと多いですよね。
実際に、アメリカの貧困層に肥満が多いのは、安価なファストフードを食べているからです。肥満は糖尿病の原因ですよ。
まとめ
このように、冷静に考えるなら、糖尿病が贅沢病だというのは科学的根拠に乏しい単なる偏見です。
しかも「贅沢をしていないから安全だろう」などと根拠のない思い込みを助長する、非常に危険な偏見だと思います。むしろ貧乏で偏った食事の方が危険なのです。
また、糖尿病は環境要因+遺伝要因の複合的な原因によって発生すると考えられています。糖尿病について、その責任が患者個人の自己管理能力の欠如にあるかのような捉え方は間違っています。そんな単純な話ではないのです。
いまや日本の糖尿病人口は2000万人を超えています。そんな状況下で有害な偏見を生き残らせるべきではありません。
参考記事:生活習慣改善は必須!日本の糖尿病人口は2000万人以上
このサイトの記事を読んでいる方の中にはいないと思いますが、「糖尿病は贅沢病だ」と誤解している人が周りにいたら、きちんと訂正してあげてください。